2008年07月16日

■ うたのおくりもの: フランソワ・ヴィヨン François Villon

Clusone_danza_macabra_detail[1].jpgFrancois_Villon[1].jpg      Pisanello_010[1].jpg

     François Villon

     L'Épitaphe de Villon
     ヴィヨンの墓碑銘


Frères humains, qui après nous vivez,
N'ayez les coeurs contre nous endurcis,
Car, si pitié de nous pauvres avez,
Dieu en aura plus tôt de vous mercis.
Vous nous voyez ci attachés, cinq, six :
Quant à la chair, que trop avons nourrie,
Elle est piéça dévorée et pourrie,
Et nous, les os, devenons cendre et poudre.
De notre mal personne ne s'en rie ;
Mais priez Dieu que tous nous veuille absoudre !

われらの後に生をうくる人間(ひと)の同胞よ
われらに冷たい心を持たぬよう
惨めなわれらに憐れみを懐くならば
神はみなに直ちに恩寵を下そうから
ごらんの通りここに括られて五、六人
かつては美食に養われたこの肉体も
とうにぼろぼろになり くされ果て
われらの骨は灰となり 粉となる
この苦しみを誰ひとり嗤わずに
神にわれら一同の罪の宥免(ゆるし)を祈ってほしい

Se frères vous clamons, pas n'en devez
Avoir dédain, quoique fûmes occis
Par justice. Toutefois, vous savez
Que tous hommes n'ont pas bon sens rassis.
Excusez-nous, puisque sommes transis,
Envers le fils de la Vierge Marie,
Que sa grâce ne soit pour nous tarie,
Nous préservant de l'infernale foudre.
Nous sommes morts, âme ne nous harie,
Mais priez Dieu que tous nous veuille absoudre !

みなを同胞よ と呼びかけたとしても
蔑んではならない 法の裁きに処刑された
われらではあれ 何せご承知の通りに
人間(ひと)みなが弁えをもっているとは限らない
われらは死んだ身 とりなしてもらいたい
聖母マリアの御子にむかって
その恩寵のわれらに尽きぬように
地獄の雷霆(いかずち)からわれらを守るように と
死んでいるのだ 魂を苦しめるのはやめて
神にわれら一同の罪の宥免を祈ってほしい

La pluie nous a débués et lavés,
Et le soleil desséchés et noircis.
Pies, corbeaux nous ont les yeux cavés,
Et arraché la barbe et les sourcils.
Jamais nul temps nous ne sommes assis
Puis çà, puis là, comme le vent varie,
A son plaisir sans cesser nous charrie,
Plus becquetés d'oiseaux que dés à coudre.
Ne soyez donc de notre confrérie ;
Mais priez Dieu que tous nous veuille absoudre !

雨はわれらを すすいで洗い
太陽が干して 黒くする
カササギやカラスは 目玉をほじくり
髯も眉毛も つつき抜く
ひとときとして落ち着かず
風が変われば あちらへこちら
吹くにまかせて 揺れ動き
開いたくちばしの穴は指貫の穴より多い
だからわれらの仲間にならずに
神にわれら一同の罪の宥免を祈ってほしい

Prince Jésus, qui sur tous a maistrie,
Garde qu'Enfer n'ait de nous seigneurie :
A lui n'ayons que faire ne que soudre.
Hommes, ici n'a point de moquerie ;
Mais priez Dieu que tous nous veuille absoudre !

イエスの君よ ものみなを統べる君よ
われらが地獄の支配を受けぬよう
地獄と拘わりをもたぬよう 守りたまえ
人間よ ここにあるのは冗談事ではない
神にわれら一同の罪の宥免を祈ってほしい


■ 『雑詩篇』 Poésies diverses より

 このタイトルの名は、伝承によらず、余った作品をまとめて呼ぶ便宜上のもので、目下のところ15編の作品が収録されています。

フランソワ・ヴィヨン ─ Wikipedia

 う〜ん、改めて日本語のウィキペディアを読んでみると、書き足したくなりますよねえ・・・、「ひとり静かに」この記事に、書きとめておきますか (^_^;)。

 不安定な自分自身と、自分を取り巻く生きることの定かならぬ世界をアイロニーをこめて歌いあげた、フランス文学最初にして最大の抒情詩人 ── こうしたレッテルは、19世紀になって初めて書かれるようになったヴィヨン伝に負っていて、同時代以降の、つまりは初期のヴィヨン像とは全く異なります。
 ヴィヨンを歴史上の人物として初めて扱ったのは、ギョーム・ビュデでしたが、その『ユスティニアヌス法例集注解』(1508年版)には、「名高い詐欺師といえば、われらの父祖の時代はフランソワ・ヴィヨンを想起した。(詐欺師の)定義として彼の名前を挙げさえすれば、よく納得できるだろう」とあります。
 
 だから、ぼくたちは、作品中の<主人公>とその作者とをみだりに混同することは止めなければなりません。それに、作品や作者を<了解可能>なものとする近代の<個の観念>が、中世にも通用するものなのか、そのこと自体が問題である、といえます。これからは、ロマン派の流れをひく実証主義のフィルターをはずし、ぼくたちがいったんは捉えたと信じたヴィヨン像を宙吊りにして、テクストに従って読み直す試みを、新たに、はじめなければなりません。

 

     Testament
     遺   言


XXXVI.

De pouvrete me guermentant,
Souventesfoys me dit le cueur:
"Homme, ne te doulouse tant
Et ne demaine tel douleur,
Se tu n'as tant qu'eust Jacques Cueur.
Myeulx vault vivre soubz gros bureaux
Pauvre, qu'avoir este seigneur
Et pourrir soubz riches tumbeaux!"

36.

貧乏のことを嘆いていると
心はいくたびもわたしに言う
「人間よ そんなに悲しむものじゃない
ジャック・クールほどの物持ちでなくても
こんなにつらいと かこつのじゃない
ぶかぶかのひどい服着て貧乏でも
生きているほうがずっといい 昔は領主で
今豪華な墓の下で腐っているよりは」


XXXVIII.

Si ne suys, bien le considere,
Filz d'ange, portant dyademe
D'etoille ne d'autre sydere.
Mon pere est mort, Dieu en ayt l'ame,
Quant est du corps, il gyst soubz lame...
J'entends que ma mere mourra,
Et le scait bien, la pauvre femme;
Et le filz pas ne demourra.

38.

考えても見ろよ たしかにこのわたしは
恒星や他の星ぼしを
冠に戴いた天使の子ではない
親父は死んで (神よその魂を救いたまえ)
肉体はといえば 墓石の下にある
お袋がいつか死ぬのも わかっている
そのことはこの憐れな女も知っている
その息子だっていつまでも生きてはいまい


XXXIX.

Je congnoys que pauvres et riches,
Sages et folz, prebstres et laiz,
Noble et vilain, larges et chiches,
Petitz et grans, et beaulx et laidz,
Dames a rebrassez colletz,
De quelconque condicion,
Portant attours et bourreletz,
Mort saisit sans exception.

39.

わたしにはわかる 貧乏人も金持ちも
利巧も馬鹿も 僧侶も俗人も
貴人も賤しい輩も お大尽もケチも
チビもデカも 器量の良いのも悪いのも
ぜいたくな襟飾りをつけた奥方も
アトウール(頭飾り)を被るひとも プールレ(詰め頭巾)のひとも
どんな身分であろうとも
死神はあまさず攫っていくと


XL.

Et mourut Paris et Helene.
Quiconques meurt, meurt a douleur.
Celluy qui perd vent et alaine,
Son fiel se creve sur son cueur,
Puys sue Dieu scait quelle sueur!
Et n'est qui de ses maulx l'allege:
Car enfans n'a, frere ne soeur,
Qui lors voulsist estre son pleige.

40.

たとえ死ぬのがあのパリスでもヘレーネーでも
誰だって死ぬ 苦しんで死ぬのだ
息が切れ 呼吸も止まるほどに
胆嚢が心臓の上でつぶれて飛散し
あぶら汗 神のみぞ知るひどい汗
その苦しみを和らげてくれる人などいない
実の子供だって兄弟 姉妹だって
身代わりになろうと言うものなどいないのだから


XLI.

La mort le faict fremir, pallir,
Le nez courber, les veines tendre,
Le col enfler, la chair mollir,
Joinctes et nerfs croistre et estendre.
Corps feminin, qui tant est tendre,
Polly, souef, si precieulx,
Te faudra-il ces maulx attendre?
Ouy, ou tout vif aller es cieulx.

41.

死はひとを 震え上がらせ真っ青にし
鼻をまげ 血の管をひっぱり
咽喉を腫らせ 肉をたるませ
関節をきしませ腱もゆるむ
美しい女体よ こんなにも柔らかで
なめらかで ふわふわと なんともすばらしい
そのおまえまでいずれこの責苦を忍ぶのか
そうだ それとも生きながら天へと昇るのか


■ 『ヴィヨン遺言』 Le Testament Villon より

 『ヴィヨン形見分け』 Le Lais Villon (『小遺言書』 Le Petit Testament とも呼ばれる)に対して『大遺言書』 Le Grand Testament とも呼ばれます。
 過ぎ去ってしまった青春への想いが、死への観想を生み、それが「去年(こぞ)の雪いまいずこ」のリフランで有名な「昔(いにしえ)の貴女のバラード」 Ballade des Dames du temps jadis などが収められ、16のバラードと、シャンソン chanson 、ロンドー rondeau 、ヴィルレー virelai が各1編ずつの19の詩が収録されています。


 それでは、41. の後につづく「昔の貴方のバラード」Ballade des Dames du temps jadis (クレマン・マロの命名。写本では「バラード」とのみ記されています。)をご紹介します。


BALLADE [ BALLADE DES DAMES DU TEMPS JADIS ]
いにしえの貴女を詠うバラード


Dictes moy où, n’en quel pays,
Est Flora, la belle Romaine ;
Archipiada, ne Thaïs,
Qui fut sa cousine germaine ;
Echo, parlant quand bruyt on maine
Dessus rivière ou sus estan,
Qui beauté eut trop plus qu’humaine ?
Mais où sont les neiges d’antan !

教えてほしい いまどこに どんなところに
あのローマの美しい遊女フローラは
美しさでは従姉妹ともいえる
アルキピアダにタイースは
川辺や池のほとりで ひと
呼べば木霊かえす エコー
人間(ひと)を絶した美しさの女(ひと)は
だが 去年(こぞ)の雪はいまどこに

Où est la très sage Heloïs,
Pour qui fut chastré et puis moyne
Pierre Esbaillart à Sainct-Denys ?
Pour son amour eut cest essoyne.
Semblablement, où est la royne
Qui commanda que Buridan
Fust jetté en ung sac en Seine ?
Mais où sont les neiges d’antan !

どこにいるのですか 才高いエロイーズは
彼女のために宮(きゅう)せられて(原文直訳:性器切断され)
ピエール・アベラール(原文:エバイヤール)はサン・ドニの僧院入りとなる
愛ゆえになめたこの苦しみ
そしてまた どこにいる
命じて総長ビュリダンを
袋に詰め セーヌ川に投じた王妃は
だが 去年(こぞ)の雪はどこにある

La royne Blanche comme ung lys,
Qui chantoit à voix de sereine ;
Berthe au grand pied, Bietris, Allys ;
Harembourges, qui tint le Mayne,
Et Jehanne, la bonne Lorraine,
Qu’Anglois bruslèrent à Rouen ;
Où sont-ilz, Vierge souveraine ?…
Mais où sont les neiges d’antan !

セイレーンの清麗な声で歌うたう
百合のように純白(ブランシュ)なブランシュ太后は
大足のベルト ベアトリス アリスは
メーヌの州を司ったアランビュジュルスは
そしてジャンヌ あの勇敢なロレーヌのむすめ
イギリス兵にルアンで焼き殺されたひとは
みなどこに 聖母マリアさま どこにいるんですか
いったいどこにあるんだ 去年(こぞ)の雪は?

Prince, n'enquerrez de sepmaine
Où elles sont, ne de cest an,
Qu'à ce refrain ne vous remaine :
Mais où sont les neiges d'anten ?

わが君(公子)よ いついかなるときも
みなどこにと 問いまするな
問うてもこの同じルフランに立ち戻るばかりです
去年(こぞ)の雪いまいずこ
 

喫茶店 YouTube Schumann Fantasy Op 17 Alicia de Larrocha Part 3

■ 註 ■

※ クレマン・マロ : ヴィヨン作品集の最初の校訂者ともいえる詩人。

※ 「いまどこに・・・いるのか」 : 聖書 - 「バルク書」V-16〜18 にある伝統的テーマ。

16 ¶ 今どこにいるのか、諸国の民の指導者たち、地上の獣さえ治めた者たちは。
17 ¶ また空の鳥と戯れ、人が頼みとする金と銀を蓄え、どれほど手に入れても満足しなかった者たちは。
18 ¶ どこにいるのか、心を砕いて銀に細工を施し、比類のない働きをしたものは。

※ 遊女フローラ : ローマの、美と知性を兼ね備えた高級遊女。その名は、神話のなかの庭園の女神の名に由来。

※ アルキピアダ : 前5世紀のギリシャの将軍アルキピアデース。美男として有名でしたが、中世フランスでは女性と思われていました。

※ タイース : ギリシャの遊女タイース(前4世紀)と、エジプトのもと遊女でキリスト教に改宗、清らかな後半生を送り、聖女に列せられた聖女タイースとする説があります。

※ エコー : ギリシャ神話のなかの妖精(ニンフ)。

※ エロイーズ : Héloïse (1101 - 1164) ピエール・エバイヤールの教えを受けた才女にして美女。後に、エバイヤールと結婚。

※ ピエール・エバイヤール Pierre Esbaillart (1079 - 1143) : ピエール・アベラール Pierre Abélard, Pierre Abailard : アベラールの名で知られる詩人、哲学者。教え子エロイーズとの恋、往復書簡で有名。エロイーズの伯父の差し金で、睡眠中に去勢された。

※ 総長ビュリダン : Jean Buridan (1300? - 1358?) 1347年、パリ大学総長。哲学者。若年の放蕩時代のエピソードによる。

※ ブランシュ太后 : 聖王ルイ9世の母とされていますが確証はありません。

※ 大足ベルト : ヴァリアント「平べったい足のベルト」とともに、多くの文学的作品に登場するフォークロア的人物。シャルルマーニュの母親。

※ ベアトリス、アリス : フィリップ・ド・ヴィニュールの武勲詩「ガラン・ロエラン」にこの二人の名を見ることができますが、詳しくはわかっていません。

※ アランビュルジス : アンジューとメーヌの2州を領した女伯エランブール Erembourg のラテン語表記。

※ ロレーヌのむすめ : ロレーヌ地方ドンレミ・ラ・ピュセル村生れのジャンヌ・ダルク Jeanne d'Arc のこと。


■ 『隠語によるバラード』 Les Ballades en jargon

 俗にこう呼ばれている作品は、特殊なフランス語で書かれています。最も古い伝承を残すピエール・ルヴェによる刊本(1489 ?)のタイトルには、Le jargon et jobellin dudit Villon とあります。当時の言葉の使い方にできるだけ忠実にこのタイトルを読んでみると、「前記ヴィヨンの<おしゃべり>にして、かつまた<間抜けどもの言葉>」のバラードとなります。 <ジャルゴン>を<隠語>、<ジョブラン>を<15世紀の盗賊の仲間言葉>と読むのは、誤解になります。とても難解な言葉で綴られているため、現在もフランスのヴィヨン研究者らによって、解読がすすめられています。


 人は誰でも死ぬ。

 ── 古今東西の普遍的主題の代表作と呼ばれているヴィヨンの詩を、いくつか紹介しました。

 ヴィヨンの詩は、15世紀ヨーロッパという「時代」の呻き、そのものであったのではないでしょうか。15世紀ヨーロッパといえば、黒死病(ペスト)の恐怖が時代を覆った世紀でもありました。「ヴィヨンの墓碑銘」のなかにも、その恐怖を読み取ることができます。

 ディランは、ヴィヨンの「うた」を、どのように聴いたのでしょうか・・・


  To Thee my soul is flown,
   And my body is earthward press'd :
  It is an awful mission,
  A terrible division,
  And leaves a gulf austere
  To be fill'd with worldly fear.
( John Keats, “ God of the Meridian, ” 3 - 8 )

  あなたのもとに僕の魂は飛んで行く
   僕の肉体は地上に押さえつけられる。
  それは恐ろしい使命であり、
  恐ろしい分裂である。
  そしてけわしい淵は
  地上の恐怖でみたされるままである。

  O let me, let me share
  With the hot lyre and thee
  The staid philosophy.
  Temper my lonely hours,
  And let me see the bowers
  More unalarmed !
( “ God of the Meridian, ” 20 - 25 )

  ああ どうか僕に 僕に分けてください
  あなたの熱いたて琴とともに
  まじめな哲学を。
  僕の孤独な時間を癒してください
  そして僕にもっと落ち着いた
  あなたの東屋を見せてください。


 それでは、また!



posted by 空っぽの皿 at 00:49| パリ 晴れ| Comment(5) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
G8議長サミット記念コンサート
メイン楽曲として佐村河内守《交響曲第一番》が初演されるんだね。
やはり誰もほっとかないっすよね、孤高の全聾天才作曲家は世界を見渡しても、我が国の佐村河内守しかいない訳だから・・・

やはりきましたね!
Posted by ROUTE・Y at 2008年07月16日 13:10

フランソワ・ヴィヨンのことを、詳しく教えて下さってありがとうございます。

『ディランは、ヴィヨンの「うた」を、どのように聴いたのでしょうか・・・』

私は次のディランの言葉を知っているだけです。

『フランソワ・ヴィヨンの音は

      わたしの狂気街道にひびき』


"with the sounds of François Villon

      echoin' through my mad streets "

      <11 Outlined Epitaphs >より


どう解釈していいのかは分からないのですが。


* 尻尾のついた『C 』がおかしくなってしまいますね。
Posted by ティンク at 2008年07月18日 16:24
佐村河内守の交響曲第一番に惚れました。

本当に度肝を抜かれる素晴らしさ!

CD出るの待ってます。

佐村河内守は天才です。
Posted by 雅也 at 2008年12月30日 20:17
佐村河内守の交響曲第一番は現代作曲家のものとしては最高峰ではないでしょうか!
次演が待ち遠しくてしかたないです。
Posted by 原理マン at 2009年01月14日 17:28
佐村河内守の交響曲第一番が聴きたくて堪りません!
Posted by 朝美 at 2009年02月25日 12:33
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